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落語から見えてくる江戸の防火対策

庶民のやり取りが描かれている落語の世界。江戸落語には火事や火消が登場する噺もあり、当時の防火対策の様子が伺えます。

夜廻りで火の用心を呼びかける

 火事が多かった江戸の町。火の用心を呼びかける夜廻りを行っていた町内の旦那たちと役人のやり取りを描いたのが、「二番煎じ」という落語。寒さ厳しい冬の夜、二手に分かれて交代で見廻りをし、一方は温かい番小屋で休憩しようと話がまとまります。すると冷え切った体を温めようと、こっそり持参した酒を持ち出す旦那たち。お茶を入れていた土瓶を空けて酒を火鉢に掛け、燗酒で酒盛りが始まります。
そこにやってきた見廻りの役人。土瓶の中身を見とがめられて「風邪の煎じ薬です」とごまかします。すると、自分も風邪気味なので飲ませろと詰め寄る役人。
仕方なく酒を飲ませると、「これはいい煎じ薬だ」とおかわりを催促され、酒がなくなりそうに。それじゃたまらないと、「もうございません」と断ると、役人がひと言、「ひと回りしてくる間に二番を煎じておけ」というオチ。
番小屋というのは、自身番の詰め所で、町の警備や防火・消防活動の拠点。夜廻りをする人たちや役人が利用していました。夜廻りをしていた旦那たちは、町内会のおじさんといったところ。役人は交番のおまわりさんに近い存在でしょうか。そんな役人が、酒だと気づきながらも「煎じ薬」だという嘘に乗っかって堂々と飲むところに、偉そうな役人を皮肉る町人の気持ちが表れているように感じます。江戸の自治活動や町人と役人の関係がわかる噺です。

「火消」は若者が憧れる職業

 「火事息子」は、火消が登場する噺。質屋の一人息子が、火事好きが高じて「火消になりたい」と家を飛び出し、勘当されるところから始まります。ある時、質屋の近くで火事が起こります。お客さまの品を預かっている質蔵に火が入ったら大変だと、質蔵の「目塗り」をするため屋根に上げられる番頭。高所が怖くてオロオロし、なかなか目塗りできずにいるところ、一人の火消が屋根伝いに駆けつけて番頭を助けます。無事に目塗りができ、やがて火も消されて事なきを得た質屋。実はその火消人足は勘当された息子で、両親と感動の対面を果たすという人情噺です。

土蔵の耐火性を高める「目塗り」

 当時の江戸では、火事に強い建物として土蔵造りが流行していたそうです。これは土壁の上に耐火性に優れた漆喰を塗り込めた建物で、大切な物を保管する蔵などに用いられていました。漆喰が火に強いのは、主原料の消石灰が不燃性の成分であるため。当時の土蔵は大火にも耐えられるよう漆喰を30cm以上も盛っているものもあったようです。噺に登場する「目塗り」というのは、こうした土蔵の扉や窓の隙間から火が入らないよう、練り土を塗り込めるもので、江戸時代の重要な防火対策でした。この「目塗り」は、立川談志の名演でも知られる「鼠穴」にも登場します。
主人公の男が、兄から借りたたった三文を元手に商売を広げ、大店の主になります。風の強い日、兄のところへ三文を返しに行く際、番頭に「鼠が開けた土蔵の穴に目塗りをしておくように」と言いつけて出かける男。その夜、火事が起こり、番頭が目塗りを忘れたために蔵が燃えてしまう!という夢を見た、という噺。兄弟の情を描いた噺の中に、「鼠穴の目塗り」がキーワードとして登場します。鼠が開けた小さな穴のような、わずかな隙間からも火は入り込むことを江戸の人たちは知っていたのでしょう。一瞬にして財産を奪う火事の威力を、夢に見るほど恐れていた様子がわかる噺です。

貴重品を火事から守る「穴蔵」

 土蔵以外の防火対策として、江戸の商家に広く用いられていたのが「穴蔵」です。江戸時代の絵図にも記載があり、その名の通り、庭や建物内に穴を掘って作る保管庫。火災時に貴重品を入れて火から守っていました。大きさは約2メートル四方で、深さも2メートルほどあったようで、人がすっぽり入れるサイズです。そんな穴蔵に、間抜けな泥棒が落っこちてしまうのが「穴泥」という噺。
金策に走り回ったものの金を工面できない男が、かみさんに罵られ、腹を立てて家を飛び出し、商家に忍び込む噺です。
噺の筋はいくつかあって、商家に入る理由は落語家によっていろいろ。最初から空き巣目的で入る噺もあれば、木戸が開いているのを見つけて家主に知らせようと親切心から入る噺も。そして、うっかり穴蔵に落っこちてしまいます。それを家主に見つかって、穴蔵から引きずりだそうとするが、男は出るのをしぶります。「誰か早く捕まえろ」と家主は命令するも、誰も穴蔵に下りません。仕方なく、「金を出すから捕まえろ」ということになり、金目当ての交渉が始まっていく‥‥、という噺です。

落語の登場人物は皆、間抜けだったり、ずる賢かったり、人間味あふれているのが魅力。そんな人々のやり取りを描いた江戸の暮らしが息づく落語の世界からは、当時の火にまつわるさまざまなことが見えてきます。

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