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「明暦の大火」に学ぶ消防の歴史

新コーナー『イロハヒケシ』では、火災や消防(火消・ひけし)について、読み物として楽しめる情報をご紹介していきます。

家を壊すのが江戸流の消火活動

「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉、皆さん一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。江戸時代、人口が急増して木造家屋が密集していた江戸の町では、火災が頻発していたそうで、ひとたび火事が起こるとあっという間に燃え広がって、大火事に発展することもしばしばだったようです。現代のような消火設備がなかった江戸での消火といえば、手桶に汲んだ水をかけるだけ。ボヤ程度ならば消し止められますが、炎の勢いが増してしまえば焼け石に水の状態だったことが想像できます。江戸幕府は江戸の町を火災から守るために、消防隊として「火消(ひけし)」を組織し、火事が発生すると、延焼を食い止めるために近隣の家屋を打ち壊して消火活動を行っていました。

江戸時代最大の火災「明暦の大火」

  • 本郷丸山・本妙寺:1月18日 午後2時
  • 伝通院表門下:1月19日 午前10時
  • 麹町五丁目の町家:1月19日 夕方
  • 火災発生時日時については諸説あります。

そんな江戸時代に起こった、今に伝わる大火災のひとつが「明暦の大火」。延焼面積・死者数ともに江戸時代最大と言われる被害を出し、後の消防組織の整備にも影響を与えたと言われています。

「明暦の大火」は、明暦3年(1657年)陰暦1月18日から19日に発生した3件の大規模火災の総称。当時の江戸は80日近くも雨が降っておらず、空気がカラカラに乾燥していたそうで、火災発生時には強風が吹き荒れていたと言われています。

最初の火災は1月18日午後2時頃、本郷丸山にある本妙寺から出火。湯島から神田あたりを経て八丁堀から霊巌島・佃島、さらに石川島にまで火災は広がりました。夜通し燃え広がった火災は、夜が明けて19日にはいったん衰えます。しかし強風は止むこと無く吹き荒れており、午前10時頃に再び小石川伝通院前の新鷹匠町から出火。焼け残っていた水戸邸などを含む小石川一帯を焼き尽くし、ついには江戸城にまで炎が及び、西の丸を除く江戸城のすべてが消失しました。夜が更けて、ようやく火が鎮まったように思えた頃、再び麹町5丁目から出火。桜田門一帯の大名屋敷や西の丸下の武家屋敷を焼き、鉄砲洲、そして芝の浜まで炎は広がり、最終的には江戸市街地の約6割が焦土と化しました。この火災による死者は6万8000人以上。多くの武家屋敷や寺社、町家が焼失し、死者数は10万人以上だったとの説もあり、関東大震災による死者数を上回る大災害であったことがわかります。

消防署のルーツとなる施設が誕生

明暦の大火によるすさまじいまでの被害を教訓に、幕府は江戸を防災都市とするための改革を進めます。現在の消防署のルーツとなる「火消屋敷」を造成したのも、この大火を受けての措置。江戸城を取り囲むように、飯田橋、市ヶ谷、お茶の水、麹町に火の見櫓を備えた屋敷を開設しました。また、幕府直轄の消防組織である「定火消」もこの時に誕生します。定火消の活動拠点となる火消屋敷には役人や臥煙(がえん)と呼ばれる火消人足が常駐し、いつでも緊急出動できるように待機していました。

明暦の大火が発生した当時、消防活動を担っていたのは、幕府が指名した16の大名家による「大名火消」と呼ばれる組織。ここに定火消が加わり、その後、町人による「町火消」も誕生することとなります。

防災都市へと変革する江戸の町

多くの被害を出した大火を受け、江戸幕府はただちに救済措置を講じました。まずは被災者への炊き出しを行い、幕府の米蔵の焼けた米を放出。さらに、大名や旗本・御家人から町人にまで給付金を配布しました。

町の復興としては区画整理を行い、江戸の中心部にあった寺を郊外に移転。これは、寺社の燈明が火事の火元になることが多かったためです。また多くの武家屋敷や町家も場所を移し、吉原の遊郭も新天地の浅草で新吉原として生まれ変わりました。江戸城内では、親藩御三家の藩邸を移転させ、その跡地に延焼防止帯として馬場や薬園を設置。町の道路を拡幅し、火除地として広小路を設けました。また建物においては、燃えやすい茅葺きや藁葺きを禁止し、塗屋や蛎殻葺きなどの耐火建築を推奨。明暦の大火をきっかけに、江戸は少しずつ町の防火対策を整備していきました。

町火消の装束

江戸から現代へと進化を続ける消防

江戸時代に誕生した消防組織が、いくつもの火災を経て進化を続け、現代へとつながっていきました。令和4年(2022年)4月1日現在、地域の消火活動を担う消防署は、全国に1,718箇所設置されています。数々の火災から教訓を得て消防法が改正されていくように、江戸時代においても明暦の大火をはじめとする火災をきっかけに、防火対策が強化されていったことがわかります。

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